理学療法とはどんな治療?対象になる人や受ける時期など詳しく解説
- 理学療法士
「理学」とは元々、自然界に存在する現象や原理、法則を突き詰める学問です。
物理学・科学・天文学などの総称で、大学辞典には理学が「実験・観測および理論等に基づく合理的な自然観を広く社会に与えてきた」とも書かれています。
私たちがよく耳にする「理学療法」における「理学」とは、若干捉え方が違うように感じられますが、では理学療法とは具体的にどんな療法なのか、どんな患者さんの状態に効果があるのかなど、普段何気なく口にしている「理学療法」について、詳しく解説します。
目次
理学療法と、治療に関わるタイミング
理学療法とは、ケガや病気が原因で障がいがある人や、障がいが予測される患者さんに対して、生活するうえでの基本動作能力の回復・維持または悪化予防を目的として、医師の指示によって行われる、医学的リハビリテーションです。
ケガをして整形外科を受診して、リハビリを受けるよう医師に言われたことがある人はいると思いますが、実際、理学療法士さんの治療を受けると、患部が動かしやすくなっていったり、痛みが軽減していったりと、ゆっくりですが効果が出てきます。
実際のリハビリは、よく知る「ケガをして整形外科で」以外にも、以下に挙げる3つのタイミングで、治療の一部として盛り込まれ、重要な役割を担います。
急性期
いわゆる集中治療室などでの、発症から出来るだけ早い段階で行われるリハビリを、急性期リハビリと呼びます。
「絶対安静で、身体なんか動かせないのでは?」という印象の時期ですが、なるべく早く治療に関わり支援することは、早期の離床に繋がり、寝たきりの防止や後遺症の軽減に効果を発揮します。
呼吸の練習をする、立てないまでも身体を起こす、今動かせる部分だけでも動かす、褥瘡(床ずれ)の予防など、思った以上にできることはあるのです。
さらに、この時期はリハビリの効果が目に見えて実感しやすく、短い時間の中で回復の過程を目の当たりにすることで様々な症例を経験することができます。
また、手術で受けるダメージによって削られる体力や筋力を少しでも残し、日常生活に戻りやすくするために、体力を高めるリハビリが術前に行われることもあります。
せっかく「大きな手術をした」「効果の高い投薬をした」としても、その後基本的な動作ができなくなってしまうのはとても悲しいことです。
長期にわたって安静にしているよりも、急性期の早い段階で理学療法を取り入れることが、患者さんが次の段階に進みやすくなり、スムーズな運動機能の回復に繋げることになるのです。
回復期
回復期は、急性期を脱して病状が安定し、回復能力が高くなっている時期を指し、この間に行われるリハビリは回復期リハビリと呼ばれています。
命の危険にさらされている時期から抜け出して、急な病変が考えにくい状態に安定すると、状態にもよりますが大体2週間ほどで、退院や転院を求められます。
患者さんが家に帰ってからも、以前と同等もしくはそれに近い程度の生活を送れるように、生活に直結する動作のためのリハビリを継続する必要があります。
社会復帰を見据えたリハビリが可能な入院施設に移り、一日約3時間程度、「歩く」「衣服を着る」「掃除をする」などのリハビリに励むことになります。
特に「食事をとる」「トイレに行く」などは患者さんの尊厳に関わる部分なので、リハビリの中でも重要なポイントになります。
朝起きて寝るまでの間の全てがリハビリと言ってもよい回復期は、急性期と違って患者さんと関わる時間も長くなり、リハビリの結果も、時間をかけた分実感も湧きやすいでしょう。
維持期
リハビリは状態を引き継いで進めていくバトンリレーのような治療です。
回復期から引き継がれた維持期リハビリの患者さんは、既に我が家に帰り生活を営んでいます。
そんな患者さんに対して行われる理学療法は、維持期の文字通り「回復した状態の維持」が目的でした。
しかし昨今のリハビリ医療の技術は、維持期での目標として患者さんがその人らしく生活するための「生活の質(Quality Of Life=QOL)」の向上に重きを置けるほど、進化しています。
維持期では「何がどのくらいできるようになりたいのか」、本人の希望を聞いて、見合ったリハビリの計画を立て、理学療法士や作業療法士・言語聴覚士などがチームを組んで取り組みます。
しかり何よりも、患者さんが自発的に臨むことが結果に繋がりやすいのが、維持期の理学療法です。
理学療法は「運動療法」と「物理療法」の2種類
一言で理学療法と言っても、実に様々な治療法を含んでいますが、大きく分けて「運動療法」と「物理療法」の2つに分けられます。
運動療法
運動療法とは文字通り、身体を動かす=運動することで身体の機能回復を図る、リハビリの種類のひとつです。
以下のように、様々な運動療法があります。
関節可動域練習
長い間関節を動かさないでいると、靭帯や骨格筋などの軟部組織が壊死し、組織が線維化して伸び縮みする能力が損なわれていき、関節として正常な動作が困難になる「拘縮(こうしゅく)」という状態になります。
そういった「曲げる」「伸ばす」といった関節の動きを改善し、拘縮を予防する運動療法が、関節可動域練習です。
基本動作練習
生活するうえでの基本的な動作に対する訓練だけでも、以下のように様々です。
- 座位・立ち上がり・寝返り・起き上がり・ベッド上での移動などの起居動作訓練
- 車いすへの移乗動作
- 歩行など移動訓練
起居動作訓練では、まずは寝ている状態から起き上がり、座位が可能になれば、次の段階で長時間の座位の訓練(座位耐久性訓練)へ進みます。
歩行訓練の前には準備として、立位姿勢の保持を訓練し、その後の歩行訓練も順に、平行棒内歩行訓練を経て平地歩行訓練、そして階段昇降訓練へと進めていきます。
主に病院などで行われるリハビリは、これら基本動作練習で、以上のように様子を見ながら段階を追って行われることで、寝たきりを予防しQOLの向上に繋ぎます。
筋力・持久力増強練習
一人暮らしでお風呂や掃除などを全て自分でしなければならない人と、家族の方がそれらをサポートしてくれる分、他に自分の好きなことをしたい人とでは、必要になる筋力に違いがあります。
筋力増強練習とは、分かりやすく言うと筋トレですが、リハビリの場合の筋トレは患者さんによって個人差のある筋力や、患者さんの生活(状況)・要望を理解した上でメニューを考えます。
そして持久力増強訓練は、座位が可能になれば長く座れるように、歩けるようになったら距離を伸ばすなど、体力の低下を改善することを目標に行われます。
自宅で行うのであれば、歩行を始め、ランニングや自転車などのリズミカルな運動で全身の持久力がつきます。
協調性訓練・バランス運動訓練
脳や神経の病気や損傷が原因で、動作のバランスや流れが上手く掴めないという症状が見られる患者さんには、協調性訓練やバランス運動訓練が有効です。
例えば、目標のものを手に取ろうとしたときに、目標物に届かない、行き過ぎてしまう、掴もうとすると手が震えるなど、細かい調整ができなかったり、動きの流れを上手く繋げなかったりする場合があります。
特別な器械などが必要ない訓練が多いため、実践しやすくなっています。
治療体操
治療体操には実に様々なものがあり、
- パーキンソン病特有の運動不足を解消する為のパーキンソン病体操
- 腰回りの筋肉を鍛えることで痛みが緩和される腰痛体操
- 肩回りの複雑な連動性を取り戻すことで解消に繋がる五十肩体操
など「治療」と付くわりには気軽に行えるというメリットがある運動療法も、理学療法として取り入れられています。
呼吸練習の指導
呼吸器疾患を持つ患者さんのための呼吸練習も運動療法の一つで、疾患の進行を遅らせたり、病状の維持・回復を狙いとして行われます。
呼吸機能がだんだん弱くなっていく中で、呼吸が浅くなることが、ますます呼吸の効率を悪化させてしまいます。
腹式呼吸の練習や、横隔膜の働きの回復、胸郭可動域の拡張、腹筋の強化など、呼吸器疾患のためのリハビリも、理学療法には存在します。
物理療法
理学療法における物理療法は、文字通り物理的刺激を手段として治療する療法です。
痛みを緩和し、傷の治療を促し、靭帯などの組織の弾性を促進することを目的として行われます。
- 患部を温めることで血行を促進し、疲れや凝りを取るなどの疼痛緩和に繋がる温熱療法・光線療法・極超短波療法など
- 痛みの緩和やリラックス効果が期待できる寒冷療法
- 水を温めたり冷やしたりして得られる効果や、水中運動なども含む水治療法
- 筋肉に刺激を与え痛みを緩和したり、筋力増強や筋委縮の予防、痙縮抑制が可能な電気刺激療法
- 疼痛緩和に効く超音波療法
- 圧力を適切にかけることで治療に役立てる陰圧閉鎖療法・高圧酸素療法
- 腰椎などの痛みの原因となる関節を引っ張ることにより負担を軽減する牽引療法
どの物理療法で治療するかは、医師と理学療法士が相談して決めることになっており、状態の変化などによって途中でプログラムを変更したり追加したりということもあり、運動療法と並行して行われる場合もあります。
どんな患者さんが理学療法の対象になる?
理学療法の対象となる人は、主に運動機能が低下した人ですが、そうなった理由は特に問いません。
病気やケガが元の患者さん以外にも、機能低下が予想される高齢者の対策や、メタボリックシンドロームの予防、スポーツ選手などの機能向上など、最近は障がいから遠い健康な人も理学療法の対象となっています。
特に原因が病気の場合は、中枢神経疾患や整形外科疾患、呼吸器・心疾患や内科的疾患での体力低下など、本当に様々な病気が運動機能の低下の理由となるので、適切な治療法を選び、患者さんとコミュニケーションを取りながら、希望に沿うようなプログラムを組み立てられます。
理学療法士とは
例えば手術を終えたばかりの集中治療室の患者さんは、精神的にも肉体的にも疲れ果てて、あちこちに痛みを抱えている状態です。
例えば高齢の為に出来ることが減っていき、手伝って思うように運動が続かない施設利用者さんもいます。
理学療法士はそんな患者さんを診て、その心情を思いやりお声がけをしながら、その人らしい生活ができるようにプランを考え、前向きにリハビリに向かうよう支援する国家資格者です。
なかなか結果がでない時もありますが、根気よく続けた先に患者さんに輝きが戻った時が、理学療法士としてやりがいを得られる瞬間でしょう。
学ばなければならない学科も多く、資格取得も簡単ではありませんが、合格率は80%を超え、そこまで狭き門ではありません。
高齢化が急速に進んでいくこれからの社会で、将来性がある職業といえるでしょう。
まとめ
理学療法とは実際どんな療法なのか、具体例をご紹介しながら解説しましたが、いかがでしたか?
治療法が多岐にわたる分、知識もより多く必要となる理学療法を、十分理解して治療に携わる理学療法士は、思うように身体を動かせずに不安の中にいる患者さんから見ると、とても頼れる存在だと言えるでしょう。
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